義母は田舎で小さな温泉旅館を営業しています。
インバウンドでホテル業は景気のいい話を聞くこともありますが、義母の旅館は寂れています。
そこそこの値段は取っているようですが、建物や設備が老朽化しているため、割高感があるのは否めません。
思いっきり値段を下げて、バックパーッカーや若者向け宿泊施設に変更した方がいいのかもしれませんが、義母も高齢であり今更改造などでお金はかけたくないのです。
赤字にならない程度で続けられればいいのかもしれません。
昔は、高級旅館として派手な経営をしてました。
バブルの頃など、有名人や財界人が来るほどでした。
部屋で食事を済ませ、飲み足りないお客さんは、2次会に旅館の和風カウンターバーにいらしていました。
私もカウンターの隅で、お客さんに紛れてお酒をいただいていました。
カウンターバーでは、芸者さんが接客を手伝っています。
カウンターの真正面はガラス張りになっていて中庭が見えます。
ライトアップされた中庭には松の木があり能の舞台のようです。
ある日、義母が芸者さんたちに何かを指示しました。
すると、3人の芸者さんたちは中庭に出て行き、曲に合わて日本舞踊を踊り出したのです。
ライトアップされた中庭を舞台に、見事にそろった芸者さんが舞う光景はすばらしいものでした。
この頃は、息子も娘も小学生だったこともあり、休みがあるとよく家族で義母の旅館に遊びに行きました。
当時娘は、陶芸教室に通っていました。
陶芸を始めて2年。
まだ、ろくろは使えませんが、手びねりでお皿や湯呑みを作っていました。
私の誕生日には、ぐい呑みを作ってくれましたが、なかなかのものです。
形が整ってないのですが、かえって味があり、すべて同じ形の器より飽きないのです。
また、陶芸の先生が手伝ってくれるのか、土がいいのか、焼き方が上手いのか、実にいい色と艶が出ていて、なんとも”趣き”があるのです。
この小皿のふちに箸を置くと転がり落ちてしまいます。
水平でないのも”趣き”があります。
しかし、この勢いで生産されたら、家中が”趣き”だらけになりちょっと不安になっていました。
娘は、中でも良くできた小皿5枚セットを義母の誕生日に、プレゼントをしたのです。
義母は洒落っ気があり、なんと旅館の夕食の刺身を、娘の作った皿にちょこっと盛り付け、お客さんに出してしまいました。
当時はそこそこ高級旅館なのにです。
義母は「このお皿なかなかいいと思いませんか?」
なんてお客さんに言うと
「これはいいもんだねえ~、実に形がいい!有名な陶芸家の作品なの?」
なんて絶賛されたらしいのです。
祖母はげらげら笑って「有名じゃないけど、若くて将来のある陶芸家」
と言ったそうです。
その場の雰囲気で小学生のお皿も、一流陶芸家のお皿になるのです。
お義母さん。今度、私の “書” でも掛け軸にして、旅館の部屋に飾っていただけませんか?
書は、もちろん私の座右の銘である「長いものには巻かれよ」です。
「計画性のない生活」の方がいいかなぁ~
今だったら額に入れて「令和」がいいかなぁ~
「消費税10%!(軽減税率8%あり)」注①も旬かなぁ~
現在、娘は全く陶芸はやっておらず将来性はありませんでした。
しかし、今でも我が家では娘が作ったお皿を普通に使っていて、皿に置いた箸は毎日
転がっています。
注①:2019年10月以降の消費税について
旅館での飲食は10%となります。但し、お部屋の冷蔵庫のお飲み物は8%とな
ります(アルコール類は10%)のでご了承願います。
女将(代)